ポーランドの短い夏

ウーマンブログ読者のみなさん、お待たせしました!
前回に引き続きポーランドより、ワルシャワ在住のハンサムウーマン、ピスコルスカ千恵さんから、目下開催中のEUROやポーランドの夏に関する最新レポートです〜
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ポーランドの夏は、寒くて暗い冬に比べたら、短くていつの間にか終わってしまう。今年もきっと…、いや、もう多くのポーランド人にとって夏は終わってしまったのかもしれない。
待ちに待った「ユーロ2012」。ウクライナと共に開催地に選ばれたポーランドでは、ヨーロッパの一員として恥ずかしくないようなホストを演じようと、去年から今年にかけて国の整備にいそしんだ。今まで長い間工事が滞っていた高速道路が出来上がる。ちょっと前まで、ごみをかき分けて買い物するような青空市場と化していた古いスタジアムを一掃して、新しい国立スタジアムが、あっという間に作り上げられる。周辺の、夜歩くにはちょっと危なかった界隈は、ライトアップされてすっかりきれいになり、中心地とスタジアム間のバスや電車の駅は、そこだけまるで違う国に来たかと見間違うくらい整備される。仕事上、工事現場の実態を知る私は、こうやってやる気になればできるのに何でいつもはやらないんだろう、なんて思ってしまう。とにかくイベントがモティベーションとなって国がきれいになる、ということはいいことだ。お客さんが来るからうちを掃除しよう、というのと同じ。
 
国立スタジアム(2011年11月竣工)。色は国旗の白と赤。モチーフは田舎の高原品である編みかけの籐かご。ポーランド人はダサいデザイン、という人が多いけど、近代的な設備を搭載しながらも、ちょっとフォークロアなポーランドらしさをアピールしてていい感じ。

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www.abcukraina.pl より転載
ポーランドは、第二次世界大戦が始まった国であり、ナチスドイツに侵攻され大虐殺が国中で行われ、アウシュビッツという人類の負の財産を有する国である。この国の首都が古都の面影をかもしださないのは、他の東欧諸国のように妥協しなかったワルシャワ市民による蜂起が起こったときに、ヒトラーが怒ってワルシャワを平らにならしてしまえ、と命令したからである。ナチスのくびきから解き放たれたと思ったら、すぐに今度はロシアに共産化された。人権は無視され圧制の下、ロシアの衛星国として長い年月を耐えてきた。ポーランド近代史は自由を勝ち取るための歴史だったといってよい。やっとその自由を得て民主化したポーランド、今度は国際社会における自国の遅れを直視することになる。こうした歴史の中で培われたコンプレックスは非常に根強く、経済的格差が縮まってもそう簡単にはぬぐえない。何代もかかってそれを浄化していくのである。
 
楽しいサッカーの話をするはずが、暗くて重たい歴史の話をしてしまった。でもこれをしらないとポーランドのことはわからない。ヨーロッパ中沸き立つお祭り騒ぎの「ユーロ2012」ポーランド開催が、この国にとってどんな意味を持つのかも。
ユーロのチケット、ウクライナではまだまだ売れ残っているというが、ポーランドでは何ヶ月も前に完売した。家々の窓には祭日のように国旗がはためき、ミニ国旗を立てて走る車も日々多くなっていく。ワルシャワの中心部は一ヶ月も前からバスの路線を変更させて通行止めにし、大きなスクリーンを設置して何万人もの観客が立ち見できるファンゾーンが作られた。オフィシャルソングとはまた違ったポーランド語のテーマソングがヒットし、学校で家で子供たちがひっきりなしに口ずさむ。
 
「EURO KOKO」つまり「コケコッコ・ユーロ」。民族衣装を着たおばあちゃんたちが歌う民族舞曲をアレンジした歌。レトロを狙ってるんだろうけど、とってもダサい! 

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(www.fakt.pl <http://www.fakt.pl> より転載)
ワルシャワ中心部に設けられたファンゾーン。ワルシャワのシンボル、「スターリンの贈り物」文化科学宮殿のふもとにある広場がメインの会場。かつて共産主義下ではパレードなどが行われたところだ。(写真撮影:筆者)

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ユーロが始まった週、私は家族と一緒にワルシャワから遠く離れた静かな湖畔でテントを張りキャンピングしていた。公休日と週末を利用し、首都の混雑から離れようという魂胆である。しかしオープニングの前日は、近くでアマチュアサッカー選手の合宿だかなんだかがあり大騒ぎ、ワルシャワにいるよりうるさくてろくに眠れなかった。オープニング直後のポーランド対ギリシャ戦は、村のほうから歓声がこだまのように聞こえてきたので、テレビやラジオがなくても試合の様子がよくわかった。やっぱり国中一丸となって応援しているのだ。
開催国でなければ大会に出られなかったとも言われたポーランド、それでも国民の期待はめちゃくちゃ大きい。負けても仕方がないかもしれない、でも、もしかして、やってくれるかもしれない…。みんながそう思っていたはずだ。それは見ていて、痛々しいくらいに。この国には、自分たちだってやれるんだ、とみせてくれる英雄が必要なのだ。
 
対ギリシャ戦は引き分け。負けたのでない、よくやった。GKのシュチェスニーは退場になったけど、若手のティトニはがんばった。ドルトムントのエース、レバンドフスキ、期待に応えてゴールを決めた。
 
続いて注目の対ロシア戦。ポーランドのロシアに対する思いは複雑だ。それは18世紀にポーランドが分割されたころにさかのぼり、戦時中のカティンの森の大虐殺、前述の共産主義の歴史を経て今に至る。二年前のウクライナ、スモレンスクで起こった大惨事、ポーランド大統領や政府要人が乗った飛行機の墜落事故を、ロシアのテロだと公言、または密かに思っている人は少なくないのである。サッカーであれ、ポーランド対ロシア戦を単なるスポーツの試合としてみるのは、多くのポーランド人にとって難しいのだ。おまけに当日の昼間、応援に駆けつけたロシア人が平和のためのデモと唱って赤いTシャツを着てワルシャワを行進した。煽り、煽られ、試合が始まった。私は危ないから行かないほうがいいといわれたにもかかわらず、その雰囲気を体感するため市内のファン・ゾーンにおもむいた。
 
もちろん衣装は紅白で決めて。おてんばな私を守るためだけにきてくれただんなといっしょに。(写真撮影:筆者)
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ファンゾーンにごった返す10万人あまりの人々。合言葉は「誰が勝つ?」「ポーランド!」(写真撮影:筆者)
 
ファンゾーンには持ち物、身体検査を通過しなければ入れない場所がちゃんとあったのだが、それを知らずに、検査なしではいる場所に爪先立って、大群の先にあるスクリーンを見て応援していると…。案の定、始まった。応援の熱気に便乗して暴れることを本業とする、いわゆる似非応援団が警察と衝突したのだ。ビンは飛び交う、ねずみ花火は爆発する、警官隊が催涙弾を応酬する、悲鳴を上げて大衆が逃げまとう…。催涙弾にむせび返しながら、それでも写真を撮っている私をだんながせかす。確かにだんなについてきてもらってよかった。
 
この日、武装した警官隊は何千人も動員されて町中に配備された。(写真撮影:筆者)

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この日もポーランドチームはよくがんばった。主将ブワシュチコフスキのゴールはとても美しかった。ゴールのあとの、ひざまずいてざーっとすべって神様ありがとう、みたいなポーズも、謙虚でまっすぐでよかった。勝ったか負けたかしていれば、テンションがあがった似非応援団はワルシャワ中で一晩中警察と衝突していたかもしれないから、この勝負は引き分けでよかったかもしれない。しかし、彼らも、アイデンティティーのよりどころを求めて暴れているのかもしれない。そう思うと、だんなが、ポーランドの恥、といっている彼らのことがいとしくさえ思えてきた。
 
ヤクブ・ブワシュチコフスキ、見事な同点弾。http://gwizdek24.se.pl より転載
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対チェコ戦当日、この二つの試合を見守ってきたポーランド人のなかで、準々決勝進出の念願を今度こそ達成できるのではないか、という希望を胸に抱いていなかった人はいなかっただろう。一方で、がんばってやっと引き分けに終えることができた両試合に、余裕のなさを感じてもいた。だけど、ここで勝てさえずればいいのだ…。前半、ポーランドはかなり優位だった。何度もチャンスがあったのに、生かすことができなかった。GKのティトニの活躍も鮮やかだった。しかし後半、素人目で見ても勢いが落ちた。チェコに入れられた一点が命取りとなる。そのあともチャンスはあったのにもかかわらず、シュートはゴールをはずしてばかりだった…。
 
世代を超えて愛されるアニメ・キャラクターが象徴するポーランドVSチェコ戦。チェコはモグラのクレチク、ポーランドは犬のレクショ(www.kciuk.pl <http://www.kciuk.pl> より転載)
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試合終了後、国中が落胆し、悲しんだ。その全体のエネルギーの急低下、というのだろうか、それは窓を開けて入ってくる空気にすら感じることができた。やっぱりポーランドはどうせだめなんだ、期待が大きかった息子の失望は大きかった。いや、まてよ、道端で叫んでいる人たちがいる。「今に見てろ、4年後見てろ、ポーランドは優勝するぞ!」そう、そうやって、ポーランドは不屈の精神でいつもどん底から這い上がってきたじゃないか。がんばれ、ポーランド!

私の娘。小学校でも紅白の服を着てくるように、という日があり、徹底して爪も、マニキュアでポーランドの国旗を。指が一本だけ日本の旗なのがみそ!

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Chie Piskorska  ピスコルスカ千恵さん   ポーランド・ワルシャワ在住
空間デザイナー、エッセイスト、大学講師
福島のメッセージを世界に。ポーランドの原発建設に反対しよう。(賛同者、協力者を募集しています。)

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